身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
私はクレイグス医師を待つ間、医務室の中を見て回った。
そして直ぐに気付いた。
ここにはまだ、化学療法や抗生物質がない。近代薬学がいまだ、確立されていない。
そうすると、クレイグス医師の衛生観念はかなり先進的と思えた。
クレイグス医師が奥で処置する患者さんは、激しい嘔吐をしていた。しかしクレイグス医師は吐瀉物が散らぬよう、衝立の奥をきちんとシートで囲っている。
これらは現代においては基本でも、前時代的な医療現場では軽視されやすい。
「ブロード将軍、追加が必要なんじゃ。すまんが儂の机の上の茶色の瓶を持って来てくれんか?」
奥からクレイグス医師の声が掛かる。たまたま医務机の近くにいた私は、すぐに茶色の瓶を掴んだ。
「失礼します。こちらでよろしいですか?」
衝立の奥、シートの合わせ目から瓶を差し入れる。
瓶の中身は例に漏れず、何かの煎剤のようだった。
「おお、ありがとうよ」
クレイグス医師は瓶を受け取るとすぐに手を引っ込めて、処置を進めた。
「……ブロードさん、中の患者さんは女性のようですね。女性の兵士でしょうか?」
ふと、疑問が湧く。
女性の兵士もいるとは聞いていたけれど、透かし見た中の人物は痩せ形の年配女性のようだった。