身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい
この地で寄る辺のないレーナが、己の存在価値を求めてもがいていたのだ。
その心に俺は何故、丁寧に寄り添う事が出来なかったのか。
医療を志していたとは言え、レーナは勉強中の身であったのだ。現場を知らぬ、まっさらであったのだ。
暴れる患者を抑えつけ血肉を切り裂き、骨を削る外科手術を行う診療の現場で、どうしてレーナが働けると思ってしまったのか!
「ブロード様!? レーナ様は一人にして欲しいとおっしゃっております!」
俺は後悔に歯噛みしながら、背中に掛かる侍女長の声を振り切って、レーナの自室に駆けた。
「レーナ?」
扉の前で中に向かって声を掛けるが、返事はなかった。
一瞬の躊躇の後、俺は引手を引いた。
「レーナ、入るぞ」
西日の射しこむ室内で、レーナは寝台に突っ伏して、肩を震わせていた。