龍使いの歌姫 ~幼龍の章~
『ピギィ?ピギィ!』

「……」

ティアを抱き上げたまま、レインは歩く。

本当は途中で引き返そうかと思ったが、レオンが自分に旅立つよう言ったなら、大人しく従うべきかと思い直し、ただひたすら真っ直ぐ歩いている。

けれども、足の進みは遅く、下を向いていた。

「本当は……師匠とずっと一緒にいれると思ってたの」

あのまま、あの小屋でティアとレオンと一緒にいられると、心のどこかで思っていた。

けれども、当たり前なんてないのだと、レインは改めて思った。

レオンも、当たり前はないと言っていた。

いつ、目の前で大切な人を失うか分からない。いつ、突然卵を拾ってしまうか分からない。

何が起きるのかが分からないのが世の中。

『ピギィ!』

レインがあまりに下を向いていたのか、ティアがレインの頬にすり寄る。

「……ティア」

『ピギィ!ピギィ!!』

まるで慰めているように、まだ小さな翼を動かしている。

「ありがとう」

『ピギィ』

(卵の時から、あなたは私を慰めてくれていたね)

腕の中の温かさは、ずっと変わらない。姉を失った代わりに、レインはティアを得た。

だからこそ、守ると決めた。そして、ティアはティアのいるべき所へ、仲間が沢山いる所へ帰すべきだ。

「よし!まずは村を目指さなきゃね!」

気合いをいれるように深呼吸をして笑う。

―どんなに辛くても、悲しくて寂しくても、笑っていればきっと乗り越えられるわ―

そう言っていた姉の姿をぼんやりと思い出す。時が経てば経つほど、レインは段々ティアナの顔を思い出せなくなってくる。

けれども、ティアナとの思い出や声はまだ覚えている。

レインはティアを降ろすと、懐から横笛を取り出した。

(師匠は結局、これの吹き方教えてくれなかった)

前にこれの吹き方を聞いた時、大人になったら自然に吹けるようになるよと笑っていた。

(いつ、私は大人になれるんだろう?)

竜のことも結局聞けなかった。

「考えても仕方ないよね。進もう」

『ピギィ!』
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