龍使いの歌姫 ~幼龍の章~
ノノンに誘われ、レインは紅花村へ案内してもらうことにした。

「ここからすぐだよ!それより、ティアちゃんはリュックの中にいて平気なの?」

ティアはぐっすり寝てしまったため、リュックの中で眠っている。

どうやら最近のお気に入りらしく、道具の入った狭いリュックの中が好きらしい。

これではまるで猫のようだ。

「うん、大丈夫。暫くはぐっすり寝てるだろうし、揺りかごの代わりになってるのかもね」

因みに、ティアの性別はまだハッキリとしていない。成龍になれば分かるとレオンが言っていたが。

だが、レインは何となく、ティアはメスじゃないかと思う。

「あそこが村の入り口よ!」

ノノンが指差した方向を見ると、レインのいた白夜村と同じ作りの門があった。

「……」

知らず手をギュッと握っていた。

『赤い髪のディーファ』

『忌み子ね』

『緑の髪のおばちゃんは魔女だ。お前も魔女なんだろ!』

甦る罵声と、冷たく見下ろす瞳。

姉は確かに魔女だった。けれども、妹の自分は魔法など使えない。

ただの、人間でしかない。それは、姉だってそう変わらないだろう。

姉はレインの知る限り、魔法で村の人を傷付けるようなことはしなかった。

薬を作って、苦しんでいる人を救って。いつも笑顔で優しくて。

そんな姉を、村人は平気で差し出した。

今ではもう怒りもない。けれども戻りたくはない。

レインにとっては、もう過去の場所だ。

だが、あの村と良く似た作りの村の門は、レインの心の傷を呼び覚ます。

それを押さえ付けるように、唇を噛み締めた。

「?お姉さん?」

「え?」

ノノンの声でレインは我に返る。

「どうかしたの?」

「……何でもないよ!……よいしょっと」

レインは念のため、リュックからマントを取り出し、それを着てからフードを被る。

レオンが詰めておいてくれた白いフードは、少しブカブカだが、髪を隠すのには調度いい。

「じゃあ、行こ!」

ノノンの先導で、レインは紅花村へと足を踏み入れた。

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