龍使いの歌姫 ~幼龍の章~
竜に堕とされた龍
儀式の間は、仕事場からそう離れていない所にある神殿の中にあるようだった。

レインとノノンは、表に見張りがいると知り、裏口へと回る。

丁度見張りは、儀式のためにいないのだろう。すんなりと中に入ることが出来た。

儀式の間には、数人の男達がおり、全員ハサミを持っている。

檻の中には、先程見た龍の赤ん坊達が詰められていた。

「「……」」

レインとノノンは息を殺して、柱の後ろから様子を伺う。

「さぁ、竜へと堕ちるがいい」

そう言って、ノノンの父親は一匹檻から出すと、ハサミを持っている男へと差し出す。

男は差し出された龍の赤ん坊を腕に抱え、背中の翼をハサミで切り落とした。

『ピギャァァァァ!!!』

断末魔のような悲鳴が聞こえ、レインとノノンは肩を跳ねらせる。

(……そんな……)

自分が予想してしまったのと同じことが起きてる。

(……大人の竜の背中に付いていた出っぱりは、やっぱり切り落とされた痕なんだ)

人の手で、龍を竜へと堕とした。

「さぁ、他の龍もみな竜へ!」

男達は次々と龍の翼を切り落としていく。ポタポタと赤い滴が床を濡らし、悲鳴が上がる。

「さぁ、これを飲め」

ノノンの父親は、灰色の液体を龍に飲ませた。

すると、龍は苦しそうにバタバタと尻尾を叩き付け、やがて動かなくなった。

仰向けになりながらも、お腹は動いていることから、生きてはいるだろう。

(……まさか、あの水。竜にするための水なの?)

耐えきれなくなったレインは、飛び出そうと思った。

だが、その前にノノンが飛び出す。

「!ノノン!」

レインの声を無視し、ノノンは走った。

「お父さんの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」

ノノンは最後に残っていた一匹を抱き抱えて、父親を睨んだ。

「ノノン!何故ここにいる?!」

「酷いよ!何でこんなことしてるの?!翼切っちゃうなんて可哀想だよ!」

「……儀式を邪魔するとは」

神官だろうか?

整った衣装を身に纏い、長い杖でトンと床を叩く。

「も、申し訳ありません。私から良く言い聞かせます。神官様」

ノノンの父親は、その場で膝をつき頭を下げると、ノノンの腕を引っ張る。

「痛い。離して!!」

「さっさと神官様に謝らんか!そして、その龍を差し出せ!」

「やだ!差し出したら、この子の翼切っちゃうんでしょう?!」

ぶんぶんとノノンは首を振った。

「龍は昔からこうして育てると決まっているんだ。人と龍が共に生きるためには、龍を飼い慣らさなければならない」
< 30 / 60 >

この作品をシェア

pagetop