毛布の上で溺れる
毛布の上で溺れる
小さな水槽の中に彼が創った世界がある。
澄み切った淡水、一面に敷き詰められた砂利。
どこからか拾ってきた流木。
青々と葉を伸ばす名前も知らない水草、小さな二匹の魚、気泡を吐き出す模造の岩。
全て彼が選んできたもの、彼が時間を掛けてその手で組み上げてきたものだ。
たった二匹のための、人工の楽園。
彼は皮肉げに僕達のエデンと呼んでいるけれど。
それはあまりに完璧に配置されすぎて、見ているといつか崩れ落ちてしまうんじゃないか、という不安に襲われてしまう。
あまりに危うい、針の上でダンスをするようなバランスの存在。
濾過装置という摂理と人工飼料という恩恵と白熱電球という太陽で支えられた中つ国。
彼という神様の創造した箱庭で、今日もくるくると二匹の魚がワルツを踊っている。
彼らは世界が透明なガラス板で区切られていることを理解しているのだろうか。
1時間停電するだけで維持できなくなる生命だと知っているのだろうか。
調整された水に浸されていることを幸いと感じているんだろうか。
そこは本当に楽園なんだろうか。