毛布の上で溺れる
わたしは返事をしなかった。
彼は嘘吐きだ。
神様なんか居ないのに。
天国なんて無いのに。
息をするように息を吐き続ける。
そんなことわかっているのに。
それでも、水槽を見ているわたしは何だろう。
魂の守人としての意義を自ら否定しておいて、
まだ魚たちの死に際を見据えようとしているわたしは。
彼の居ない部屋で、水槽のライトだけが光る部屋で、うずくまるわたし。
わたしの下半身はベッドに張り付いたように動かない。わたしの世界はこのダブルベッドだけだ。
日によって、カシミヤやキャメル、ウール入りの毛布は、 なめらかな手触りと光沢のあるぬめり感を含み、気持ちがいい。
二匹の魚を憐れむ振りをしながら、自力で歩くことすら出来ない自分から眼をそらしている。
彼がいないと何も出来ない。
それは比喩でも何でもなく、歴然とした事実として、ここに存在している。
でも彼はそんな欠陥も受け入れて、側にいてくれる。
彼はタイルの上でのたうつしかないわたしの脚を愛おしげに撫でてくれた。
柔く傷の付きやすい、酷く不恰好な、わたしの躯を優しく触ってくれた。
乾燥が不得手なわたしの皮膚に合わせて、一日に何度も、一緒にバスルームに入ってくれた。
上がったあとは、彼の手によってボディクリームがたっぷりと丁寧に塗り込まれる。
美容に全くと言っていいほど疎いわたしでも、女は肘、膝、かかと、すねが汚いと何もかもが台無し、という意識はかろうじてあって、多分そういう小説を読んだんだと思う、そういうパーツだけは幼い頃から汚れて見えないように、カサつかないように、傷つかないように、蚊に刺されても絶対に触らず、肘もつかずぐっと耐え忍んできた。
異国の強い甘い香り。
わたしはこれがあまり好きではない。