毛布の上で溺れる
「綺麗だよ」
何度囁かれても、この台詞がわたしの心を震わせる。
毛布の中でうねるわたしたちの躯、彼が眉をひそめ、無造作に前髪をかきあげると、汗が飛沫になって光るのが見えるほど。
「ん、ねえ、聞いて」
彼は返事をしない。でも彼の動きが少し緩やかになったことには気付いた。
彼にはちゃんとわたしの言葉が届いてる。
私は彼の髪に指を絡ませて新しい言葉を吐き出した。
「もし、わたしがあなたにとって重荷になるなら、わたしのことは海にでも投げて」
彼がぴたりと止まった。
「それはどういうこと」
「言葉通り」
彼は愉快そうに、喉を鳴らして笑った。
「きのう観た、金貸しのドラマの影響?」
「真面目な話だよ」
「わかったよ。でもそのときは一緒に行こう」
彼は子供みたいに笑い続けた。
鐘が八つ。わたしの微睡みの中で響いた。
彼はまだ帰ってこない、仕事はとっくに終わっているはずなのに。