毛布の上で溺れる
そろそろ魚たちの夕飯の時間だ。
水面近くに上がってきて、口をぱくぱくと開閉している。
わたしは、彼らの餌がどのケースに入っているのかすら知らない。
以前に一度、餌と間違えて水質変化剤を入れてしまったことがあるから、不用意なことは出来ない。
彼は怒ったりしなかったけれど、不気味なほど青く染まった水の中を泳ぐ魚たちがひどく苦しそうで、二度とそんなことをしたいとは思わない。
「1日くらい餌をやらなくたって、こいつらは生きてるよ。ペットショップの店員がすごく丈夫な種類だって言ってたしね」
青く染まった水を少しずつ入れ替えながら彼が言った。
「でも、餌をやらないのはかわいそうじゃない」
「水を青くするほうがかわいそうだよ」
「それは悪いと思ってるけど」
「けど、なに」
「あなたの、1日くらい、でどれだけ苦しんでると思っているの」
彼はわたしの物言いに面食らっていたようだった。
「死なないかもしれないけど、すごく辛いの。
もしかしたら死んだほうが楽かもしれないぐらい辛い。あなたにとって1日なんてたいした時間じゃないかもしれないけど、みんながそう考えているとは限らない」
「それは魚の話なの、」
「放って置かれる弱者の話よ」