笑ってよ、飯島くん。
第1章

第1節

「飯島ってさ、無愛想だよね」

友達の真理は7月の暑さに目を細めながら言った。

あと数日で夏休みに入るが、宿題が多すぎて気が乗らない。

高校生になって初めての夏休み、遊びまくるという夢は儚く散ったのである。

「誰だっけ、イイジマって」

「ほら、アンタの右斜め前の…」

私は人の名前を覚えられない。

障害とかそういうのじゃなくて、単に興味が無い。

きっとクラスの大多数の人が私を冷たい奴だと思ってるだろう。

いや、間違えじゃないんだけどね。

「あー、アイツね。黒髪で前髪凄い長い奴でしょ?」

「そう、前髪凄い長い奴」

そういうと、真理は机をバンっと叩いた。

「…なに?」

「飯島の顔見たことある?」

ゆっくり口角を上げて、目を輝かせている。

真理がこの顔をする時は大体決まっているから分かりやすい。

「めっちゃイケメンだった」

まぁそんな事だと思ったよ、と思いながら、私は口を開いた。

「だから、私興味無いんだってば。顔とか名前とか」

「もう。セリったら冷たいんだから」

結衣がフンと顔を背けた時、2時間目のチャイムが鳴った。
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