雪の果てに、催花雨は告ぐ。
「普通っていうのは、人によって違う。それはその人自身が感じている当たり前であって、価値観という名の理想でしかない」
絡まった糸を解くように、紡がれていく。
倖希に選ばれて、音になっていく言の葉が、私の心を優しく包み込む。
倖希の温度もまた、私を包み込んでくれていた。
「たとえ世界中の人々がアンタのことを否定したとしても」
夕陽に照らされた白波が、硝子屑のようにキラキラと輝く。
「…俺は肯定し続けるから。アンタが普通だってこと」
強かな意思を持っている倖希の瞳も、私には煌めいて見えた。
「だから、もう、泣かないでよ。これ以上泣いてどうするわけ?アンタは誰のために泣いているの?」
ああ、また、だ。倖希はたくさんのことを気づかせてくれる。
泣いてどうするというのか。
誰のために泣いているのか、なんて考えたこともなかった。
返事の代わりに乱暴に目元を拭えば、優しい顔をしている倖希と目が合った。
不覚にも鼓動が大きく跳ねる。
いつになく優しくて甘いから、心が引き寄せられてしまいそうだ。
泣き止んだ私の顔を見て、倖希はふわりと笑った。
「…立って。叫ぼう」
返事をする間も無く、いきなり立ち上がった倖希に無理矢理立たされる。
「倖希、叫ぶって、何を――― 」
「海の馬鹿野郎―――っ!!」
その瞬間、私の世界を侵食している無数のシャボン玉が弾け飛んだような気がした。
立ち上がるなり、どこかのドラマか漫画で聞いたような台詞を叫んでいる。
突然の行動。
しかも、倖希が海に向かって叫ぶなんて。
私は度肝を抜かれたようにその姿を見ていた。
「アンタも叫べば?スッキリするんじゃない?」
いやいや、叫べば?って。
いきなり倖希が叫んだから、私は吃驚したんだよ。
何もしていない海に馬鹿野郎、と叫ぶのはどうかと思ったけれど。
気がついたら、爽やかな笑顔を浮かべる倖希につられるように、私も笑っていた。