雪の果てに、催花雨は告ぐ。
それは極めて短い時間の出来事だったというのに、目を開けた私を待っていたのは、オレンジ色の世界。
夕陽の中にいるような感覚がする、暖かくて優しい色の世界。
私は掴んでいたはずの手を見て、目の前にいるはずの人を見た。摺り抜けたかのように手は消え、目の前には何もない。
「アンタの笑顔、俺は憶えてるよ」
どこからか倖希の声が聞こえた。非現実的な世界に残された気がした私は、堪らなく不安になった。
目の奥から溢れ出てしまった想いがひとつ、下にすべり落ちた時。突如消えてしまった倖希が、淡い光を放ちながら目の前に佇んでいた。
「ゆかり。明日、俺は学校で待ってる」
「…意味が分からないよ。学校なら、昨日も今日も行ったじゃない」
「…大丈夫。明日になれば、きっと分かる」
どういうことなの、倖希。ここは何処なの?私の身に何が起きているの?
聞きたいことは山ほどあるけれど、目の前の君を失いたくないという想いが、それ以上にある。
行かないで、と必死に手を伸ばした。けれど、この手は宙を掻くばかりで。
倖希は花開くように笑った。
「俺は始まりの場所で、アンタを待っているから」
眩しさに目を細めた時、世界は発光した。