雪の果てに、催花雨は告ぐ。
誰かが、私を呼んでいる。何かに囚われている私を目覚めさせるように、声を放っている。
それは毎日聞いていた声だというのに、酷く懐かしく思えた。そうだ、私はこの声が大好きだった。世界で一番安心する温もりを持っている人。
ハッと意識が覚醒した。鼓動がドクドクと脈打っているのを感じながら、ゆっくりと辺りを見回す。
「どうしたの?ゆかり。寝惚けたのかしら?」
目の前にいるのは、母。私が居る場所は、自分の家。衝動的に洗面所へと駆け込み、鏡に自分の顔を映した。
そこに映るのは、いつも通りに制服を着ている私。肩にはスクールカバン。
ひとり慌て始めた私を見て、母が不思議そうな顔をしている。私はリビングへ走り、テレビで放送されている今日のニュースを凝視した。
「嘘、でしょ…」
滅多にテレビを見ない私を見て、新聞を読んでいる父が驚いた声を上げている。
「何が嘘なんだ?ゆかり」
私は返事もせずに、リビングを飛び出した。母からお弁当を受け取り、ローファーに足を突っ込む。
嘘、嘘だ。こんなことが起こるなんて。
「ゆかり!?」
「行ってきます!」
私は大嫌いだったはずの家族に元気な挨拶をし、家の外へと身を投じた。