雪の果てに、催花雨は告ぐ。
早く、早く確かめなきゃ。私がこの目で見たものが真実なのかどうかを。
私は衝動のまま、力強く地を蹴って駆け出した。
通い慣れた道、人で溢れかえっている駅、満開に咲いている桜並木道を通り、倖希が居るであろう学校へと全力で走る。
私がテレビで見たものは、今日の日付だ。画面に映っていた日時は、始業式の次の日、倖希と出逢った日付を示していた。
息が切れ、途方もなく遠く感じるその道のりの途中で、何度も足を止めてしまいそうになった。鼓動ばかりが速くなるのを感じながら、走って、走って、走った先。
私は肩で息をしながら、保健室のドアを勢いよく開いた。
そこには、出張でいないはずの先生が居た。白衣を持っている所を見ると、今来たばかりらしい。
「村井先生っ、出張はっ…!?」
「は?」
「出張じゃないの!?」
「おい、落ち着け。新学期早々、保険医が出張なんてするわけねえだろうが」
言われてみれば、確かにそうだ。
「じゃあ、ユキに勉強を頼んだのは先生!?私の面倒をみるように、頼んだ…!?」
先生は取り乱している私を見て酷く驚いた表情していた。だが、すぐに冷静になったのか、ため息を吐くとタバコを取り出して。
「ユキってのは…2年の葦原か?」
「葦原…?」
その名を聞いた瞬間、背筋が凍りついた。同級生の葦原くんは、私が保健室登校になった原因を作った人だ。
彼が私に告白をし、それを妬んだ女子達から私は虐めを受けてーーー
先生はタバコに火を点すと、棚から生徒名簿を手に取った。そして、あるページを見せる。
「ーー葦原 倖希。葦原光輝の双子の弟だ」
「っ…!」
動揺している私を余所に、先生は真実を告げていく。
「アイツは半年前…お前が教室に行けなくなった日の少し前、事件を起こして退学になった」
「なんの、事件ですか…?」
「複数人の女子を拉致った、と言われているが…」
先生は灰色の瞳を揺らし、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「アイツは兄貴より出来が良かった。それを妬んだ兄貴は、アイツが好きだったお前に告白したんだよ。それを知った弟は兄貴を殴り、お前を虐めていた女子に虐めを止めるよう言った。拉致ってなんていねぇのに、女どもは…」
学校の職員たちに嘘を告げて、倖希を退学へと追い込んだ。
「葦原は今、隣の学校でーー」
居ても立っても居られなくなった私は、先生の言葉を聞かずに保健室を飛び出した。