雪の果てに、催花雨は告ぐ。
どうして村井先生が?
今まで会議や行事で留守をする時は、ここに誰かを寄越すようなことはしなかった。
一度もなかった。
それに、留守にする時はちゃんと事前に教えてくれていたのに、今回は無言で行ってしまったし。
一体どういうことなのかしら、と考えを巡らせていれば、呆れたようなため息をされて。
「理由なんて、どうだっていいよ。…一週間、俺がここに居ることには変わりないんだから」
一週間も授業を受けずに保健室に来るの?
衝撃的な発言に目を見開けば、鋭い目つきで睨まれた。
逃げるように目を逸らし、ローテーブルの脇にある鞄へと手を伸ばす。
これは退散した者勝ちだ。そう思った私は、彼が自分の鞄を漁っているうちに帰ってしまおうと、鞄を抱えて出口へと足先を向けたのだが。
「逃がさない」
しっかりとブレザーの裾を掴まれた私は、ガックリと肩を落とした。
どうやら、諦めるしか道はないらしい。
「早く教科書出して。日本史。126ページ」
「はい……」
観念した私は、眼鏡を装着した彼に促されるがまま、教科書を開いた。