鳴かない鳥
冷たい空気に晒していた手をポケットに突っ込み、マフラーに顔を埋めた。
肩に乗った雪を落とし、クリスマスツリーに背を向ける。
12月24日は、聖なる夜だ。私はこの場から退散し、独り寂しい夜を送ろう。
これ幸いに、部屋にあるカレンダーは23日のままだ。
このまま捲らずに新年を迎え、新しいカレンダーを買えばいい。
そうすれば、私の中からクリスマスというものが消える。そう信じて。
私は足先を自宅の方角へ向け、深い吐息をこぼしながら歩き始めた。
ーーーその時、
「………な…」
人混みの中から、誰かの声が鮮明に聞こえた。
何て言っていたのかは分からないけれど、私の名前を呼んでいないことは確実だ。
普段の私なら気にも留めないのに、一体どうしたのだろうか。
「……帰ろう」
今度こそ、と。 そう胸の内で呟き、歩き出そうとしたが、またもその声は聞こえる。
「……ひいな…」
今度ははっきりと聞こえた。“ひいな” と。
私は何かに導かれたかのように、その場から走り出した。