鳴かない鳥
ーーーふと聞こえた声が紡いだ名は、私の名前ではないけれど。
滴る雫のように降った声音は、私の耳に焼き付いて消えない。
人混みの中をひた走り、あの声の主の元へ。
私は正気だろうか。呼ばれたわけでもないのに、何かに引き寄せられるかのように走って。
向かった先で何をするのかなんて分からない。
何のために向かっているのかさえ分からない。
ただひたすらに走り、声の主の元へと向かう。
「……っ、居たっ…」
私に向けられている好奇心に満ちた眼差しなんて気にも留めずに、肩で息をしながらその存在を見つめる。
私と同じく、ひとりきりで。
煌々と輝くクリスマスツリーの前に、彼は居た。
私の胸の奥から、高鳴る鼓動が聞こえている。
緊張に酷く似ている気がするが、それとは少し違う感情が芽生えた。
話し掛けるつもりはない。声の主がどんな人なのかなんて興味もない。
ただ、その背中を一目見てみたいと思っただけなのだ。