鳴かない鳥
背中に突き刺さる視線に気がついたのか、彼は此方を振り向いた。
視線が交わった瞬間に、私と彼だけこの世界から切り離された場所に飛ばされたかのような錯覚がする。
周りの景色も、冷たい空気も、体温を奪う雪も何も変わっていないけれど。
ただ、その存在に惹かれてやまない。
吸い寄せられるように、彼のことを見つめてしまう。
「……なに?」
端正な顔立ち。まるで人形のようだ。
彼の綺麗な眉が不快に歪む。
「…えっと」
可笑しいな。私は話しかけていないのに。
ただ、見つめていただけなのに。
「見てたでしょ、俺のこと」
そう言われて、私は言葉を失った。
彼は呆れたように肩を落とすと、溜息を吐いた。
私は何を言えば良いのか分からず、視線を泳がせる。
自分が何のために、何をするためにここに来たのかが分からなくなってしまった。
だって、透明な糸のような何かに繋がれていたようなものだったから。
「…すみません」