鳴かない鳥
慌ててその場を後にしようと、体を反転させたのだが。
容赦無く冷たい温度が、私を引き止めるように捕らえた。
「貴女は誰?…まだ質問の答えを貰ってないんだけど」
芸術品のように綺麗な顔が、私の目の前にある。
息の仕方を忘れそうになるくらいに綺麗過ぎて、私は目を逸らした。
こんなに綺麗な男性が世界には居るのだ。
私から彼を奪ったあの女の子が世界の何処かから現れたように。
「ただの通行人です。…ツリーの前に佇む貴方が、綺麗だったので…つい」
嘘は言っていない。全てが本当かと訊かれたら、首を横に振るが。
彼は気のない返事をすると、ポケットに手を突っ込んだ。
「…じゃあ、通行人さん。これから予定はあるの?」
「生憎、寂しいクリスマスを過ごす予定です」
吐き捨てるように言えば、彼は戯けたように笑った。
くるりと私の方を向くと、柔らかく目を細める。
「じゃあさ、今日だけ俺に付き合ってよ」
何を言い出すのかと思いきや、お誘い?
パチパチと瞠目すれば、彼は渇いた笑みをこぼした。