鳴かない鳥
「今夜過ごす予定だった人がさ、一時間前に他の男と歩いてたんだよな」
「……え」
「凄いよな。好きとか何だ言っておいて、これだからさ。…なんか、もう全てがどうでもよくなってきて」
だからさ、と。彼は絶望に満ちた表情から一転させ、花が綻ぶような笑みを浮かべる。
「手始めに、新しいカレンダーを買おうと思って」
「手始めって…、カレンダー?」
彼は頷くと、百貨店の入り口へと足先を向けた。
「部屋にあるカレンダーと、つい先日あいつと買った来年のカレンダーには、予定が詰まってる。…未来が詰まってるんだ」
その眼差しは子供のように輝いていた。
その姿を見たのは刹那のことで、すぐに寂しげなものへと変わってしまったけれど。
「もう、必要ないから。新しいものに…真っさらなものに替えたい」
「…そうですか」
彼の後に続き、百貨店の中に身を投じた。
視界には何組の恋人たちが居ることだろう。
ーーーでも、他人から見れば、私と彼もそう見えるのかもしれない。