鳴かない鳥
そりゃあ、外見は大事だけれど。
「使いやすさを重視しなくちゃ、ダメですよね」
「…そうだな」
見たままの世界ではなく、触れて、感じて、色を付けて。
真っ白なキャンバスに、私はどんな未来を描こうか。
新品のカレンダーが入った袋を手に微笑む彼と、肩を並べて歩く。
見慣れた改札口を前にした私は、彼の顔を振り返った。
「…私も、振られたんです」
彼は一瞬目を見開いたが、すぐに元に戻った。
「お互い災難だったな。…まぁ、いい買い物も出来たし」
「不思議な出会いもありましたし」
なんて言って笑ってみせれば、彼も何かから吹っ切れたように笑ってくれた。
「じゃあ、ここで。…ありがとうございました、さよなら」
「おう、またな」
煌びやかなクリスマスツリーを背に、彼は私に片手を上げた。
ありがとうございました、なんて。私は彼にお礼を言うほどの何かをしてもらっただろうか?
(……寂しくは、なかったかな)
少なくとも、私はひとりではなかったから。
ふんわりと温かくなった心に芽生えたものは、きっと、花を咲かせることはない。
この不思議な出会いに何か意味があればいいと思う。