独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ヘンリッカが言っていることに自覚がないわけではなかったから、フィリーネはうろうろと視線を泳がせた。
 認めたくないだけ。たとえ、親友の前であっても。

(絶対に、言わないって決めたもの)

 違う違う恋じゃない。そう言い聞かせていないと、一歩、踏み出してしまったらもう戻れなそうで。

「——馬鹿なことを言わないで。そろそろ、行かないと——」

 出来上がった支度を見たパウルスはピィっと勢いよく口笛を吹いた。彼がそんな反応をするのは初めてで、フィリーネもついとまどった。

「え? どこかおかしい? やだ、どうしよう——せっかく新しいドレスなのに」

「違うよ、フィリーネ。見違えたってこと。いつもの君も悪くないけど——なんていうか、大人の女性って感じだ」

「……それならいいけれど、あまり不安にさせないでちょうだい」
「ごめんごめん」

 フィリーネはそっと目をそらす。
 できれば、アーベルの隣に立った時、そんなに見劣りしないでいたいと願ってしまう。

(……そう思うのが、そもそも間違いなのかもしれないけれど)

 けれど、どうしたって不安になるのはしかたのないところなのだろう。
< 121 / 267 >

この作品をシェア

pagetop