独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「今日は、お迎えは来ないんでしょう。会場まで、僕が案内するから」
「ありがとう、パウルス」

 招待はされていないけれど、会場までフィリーネを案内する役を引き受けたパウルスも、会場に入るのにふさわしい格好に着替えている。
 もっとも、パウルスが入ることを許されているのはそこまで。フィリーネをアーベルに引き渡したらすぐにこの部屋に戻ってくることになっている。
 長いドレスの裾を上手にさばいて歩くのはなかなか難しい。パウルスの手を借りて、しずしずと歩く。

「君は——頑張っているよ、フィリーネ」
「ありがとう」

 パウルスが誉めてくれたから、少しだけ気が楽になってくる。彼の方へ笑みを向けて、広間へと足を踏み入れた。

(アーベル様は、今日も囲まれてるわね)

 もちろん、アーベル一人がこの会場にいる男性というわけではない。各国の令嬢の付き添い役の男性とか、身分の高いとかがいるわけだ。
 アーベルとの縁談が成立しなかったとしても、何か国に土産を持って帰りたい。そういう思いがあふれているのがフィリーネにもわかる。

「——ねえ、あなた。そのドレスどこで仕立てたの?」

 話しかけてきたのは、今まで話す機会のなかった令嬢だ。フィリーネがにっこりとして、仕立屋の名前を教えると、彼女はまじまじとフィリーネのドレスを見つめてきた。
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