独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ◇ ◇ ◇
 
 クラインからフィリーネに贈り物をしたい、と連絡があったのは、お妃選びも半ばを迎えようとする頃だった。
 詳しい話を聞きたいと、クラインを城内の謁見の間まで呼び出す。呼び出されてやってきたクラインは、満面の笑みを浮かべてアーベルの前で頭を垂れた。

「——素晴らしい女性を紹介してくださいました。殿下」
「素晴らしい女性って……フィリーネのことか?」
「さようでございますとも」

 クラインの話によれば、フィリーネの持ってきた三乙女のレースは、今や国中の女性達の間で大流行中なのだという。
 似たような品をさっそく作り始めている業者もいるけれど、ユリスタロ王国の職人達の腕にははるかに及ばないらしい。

「失礼ながら、殿下との恋物語も女性達の心をくすぐっているようでございます」
「あれは、別に——俺は、あいつとはそこまで深い関係ではないんだけどな」

 美しいレースを身にまとい恋をかなえた三乙女の物語。その乙女達のレースを身に着けたフィリーネがアーベルの心を射止めた。
 そんな噂は、今や国中の若い女性達の心をとらえているのだという。
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