独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 一緒に箱を開けたら、フィリーネは目を丸くして新しいドレスの美しさに驚いていた。間違いなく、クラインの腕も確かなものだ。三乙女のレースがなくとも、彼のドレスが欲しいと、令嬢達が今まで以上に彼の店に殺到しているというのも大げさな話ではないのかもしれなかった。

 フィリーネの身体にぴたりと合ったドレスは、彼の店の宣伝にもいい効果を及ぼしているのだと思う。

 どうやら、フィリーネというのはアーベルの知っている令嬢達とはものすごく違っているらしい。集まった令嬢達は、クラインのドレスを身にまとい、三乙女のレースを飾ってアーベルを囲んで彼の注意を引き付けようとしているのに、当の本人は彼のことなんてまるで目に入っていない。

 アーベルを男性として意識していないのなんて丸わかりで。彼女が喜ぶことといえば、レースを欲しがる女性の声を聞いた時だけ。

(まったく、たくましいというかなんというか)

 フィリーネは過ごしやすい夏はいいだろうが、冬は雪に覆われる国の出身だ。そんな中で身を寄せ合うようにして生きてきた国民のことを彼女はとても大切に思っている。
 フィリーネはアーベルにとって、あらゆるところで規格外の王女に思えた。

 本当に、フィリーネは見ていて飽きない、とアーベルは思う。
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