独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!

 上演される演目をすっかり忘れていたのだが、悲恋を描いたものだったのだ。敵対する家に生まれた若い男女が、愛を成就させるために二人そろって死を迎えるという物語だった。

 どちらかと言えば血沸き肉躍るようなはらはらとする演目をアーベルは好む。それに、『お気に入り』を連れてくるのに悲恋はいかがなものかと思っていたのだが、フィリーネはすっかり感激したみたいだった。

「……どうしよう、涙が止まりません」

 最後、主役が二人そろって死んでしまったのを見届けながら、フィリーネが涙をぬぐう。彼女の持つレースのハンカチは、涙でびしょびしょだった。

「お前、こういう話が好きなのか?」
「……だって、敵同士の家に生まれたからってあんまりじゃないですか……!」

 感動的な結末をもう一度思い浮かべたのか、また、新たな涙が目から零れ落ちる。

「あぁもうっ! こんなところでめそめそ泣いている場合じゃないだろうが——」

 フィリーネの持つハンカチは、涙を吸い取る役には立ってくれなそうだ。しかたがないので、アーベルは自分のハンカチを取り出し、彼女の目に押し付ける。

 自分の行動が、周囲にどう見られているのかは、まったく考えていなかった。
 
 
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