独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 最近の彼女は、ちょっといらいらしているように見える。それは、たぶんアーベルと会話をする機会があまりないからなのだろうが、そこはフィリーネの力でどうにかしてあげられるところではないので、自力で頑張ってもらうしかない。
 ライラを敵に回すのは得策ではないので、おとなしくフィリーネは頭を下げる。なにせ、フィリーネの国とライラの国では国力が全然違う。

「なんなの、そんな格好して——どうして、あなたがアーベル様と一緒にいるのよ!」

 そんな恰好と言われるのはわかる。他国の令嬢達と比較するとあきらかにフィリーネは地味だ。アーベルと一緒にいるときはともかく、今は自分一人なので油断していた。
 怒り任せに、ライラはフィリーネに詰め寄ってきた。

「な、なんでって言われても……」

 彼のお気に入りを演じるのが自分に与えられた役だからです、なんてフィリーネには言えるはずもなかった。ライラの剣幕に押されてしまって、言葉が出てこない。

「アーベル様も、アーベル様よ、こんな——こんな——」

 それきり、ライラも言葉が出ないみたいだった。怒り任せにフィリーネの肩に手をかける。
< 164 / 267 >

この作品をシェア

pagetop