独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「わ、私のせいじゃないんだから!」

 そのまま走り去るライラを、フィリーネは呆然と見送っていた。言葉も出ない。
(……だって、これは)
 たった今、ヘンリッカにも話したばかりだった。完成までに一年かかった。
 売り物にはできない糸を集めて、それを少しずつつないで。一年かかってようやく満足のいく仕上がりになったのに——。
 違う、許せないのはそこではなかった。

「フィリーネ様!」

 部屋に必要なものを取りに行っていたはずのヘンリッカが、いつの間にか戻ってきていた。呆然となっているフィリーネの手にあるショールに彼女の目が吸い寄せられた。

「誰がこんなひどいことを!」
「……そう、ね……ひどいこと、なのよね……」

 自分がひどいことをされたというのに、実感が湧かない。

「フィリーネ様、しっかりしてください。ええと」

 うろたえているヘンリッカのもとに、図書室の中にいた令嬢が近づく。ひそひそと彼女は、ヘンリッカに事情を説明してくれたみたいだった。

 それを聞いたヘンリッカはぎりっと眉を吊り上げた。
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