独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「——フィリーネ様、とりあえずお部屋に戻りましょう。こんなところに、これ以上いる必要はありません」

 ヘンリッカは半分フィリーネを引きずるようにして部屋に戻る。そしてフィリーネをソファに座らせるとすぐに部屋を出て行った。

(……私ってば、なんてことを……)

 ぼろぼろになってしまったレースは、修復するのが大変だ。これにかけた時間を考えれば、すぐには動く気になれなくても当然だった。

(ヘンリッカは、どこに行ってしまったのかしら)

 こんな状況で、フィリーネを放置するなんて彼女らしくない。
 けれど、それを考えるのもなんだか今は億劫でしかたない。フィリーネはぎゅっと、ショールを両手で包み込んだ。

(……どうして、こんなことに)

 許せないのはなんだろうと懸命に考える。
 アーベルの側にいるのをそしられるのはしかたないと思っていた。それは割り切っているつもりだった。

 彼はフィリーネとの約束を守ってくれたし、最初から、花嫁選びが終わるまでの間だけという約束だった。こんな形でひどい目にあわされるとは想像していなかったのだ。
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