独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 もし、フィリーネみたいなぱっとしない娘が、アルドノア王国の王太子の『お気に入り』になったとしたら。
 周囲の人達の目は、いっせいにフィリーネに向けられることになる。
 だから、彼からの申し出は、フィリーネにとってもありがたい話であった。

 ——このレースを身にまとえば、恋をかなえることができる。

 長い間修業を積んだ職人達が、丹精込めて作り上げたレースに、フィリーネはそんな謳い文句をつけた。
 アーベルの心を射止めたフィリーネのまとうレースに、女性達が興味を持ってくれたなら。
 けれど、恋をかなえるレースを身にまといながらも、フィリーネの恋はかなわない。
 そんなの、最初からわかっている。
 共に自分の国の未来を考える者として、アーベルはフィリーネに手を差し出し、フィリーネは差し出された手を取った。それだけのこと。

 この恋は、見せかけ。

 この恋は、契約。

 時が来たら、フィリーネは湖の美しい国に帰る。
 だから——どうか。
 祖父母の悲願を果たすことができますように。
 
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