独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「そうでしょう。何度も何度も話をして。正直なところ、やめようかと思ったこともあったわ。初めて顔を合わせた一週間後には、派手に喧嘩をしていたんだもの」

「一週間後……? それは、婚約が正式に決まる前の話ではないですか」

「そうよ。でも、そうやって、何度もぶつかったの。だって、国を盛り立てるだけじゃない。私達は——家族になるのだから」

 家族、という母の言葉が、思っていた以上にアーベルの胸に突き刺さった。自分は、集まっている令嬢達と家族になろうと思ったことがあっただろうか。

「だから、真面目に考えなさいな。真面目に、考えて、考えて——それが、あなたのすべきことだから」

 それ以上、母に返す言葉をアーベルは持たなかった。

 自分が、あまりにも甘いことしか考えていなかったこと。さらには、彼のために集まってくれた令嬢達に、正面から向き合っていなかったことも指摘されて初めて気づく。

 だが——もう、欲しいものはわかっているのだ。

 普通に考えたなら、まず、アーベルには好意を寄せるはずのない相手だ。

 冬の間は、共に暮らす皆の食事を作ったり、学校の先生を務めたり。
 自分の国の『家族』のために、全力を尽くそうとしているフィリーネ。

 フィリーネの気持ちが、誰にあるのかなんてわかっている。
 最初から、アーベルに勝ち目なんてなかった。フィリーネ自身も、アーベルにはまったく興味がないと言っていたではないか。

(……まったく、どこで間違えたんだろうな)

 壁に拳を打ち付けたい気持ちになるが、ぎりぎりのところで回避する。少なくとも、自分が間違っていたということを知れただけでもよしとしなければならない。

(もう泣かせない——なんて言っても、説得力はないんだろうな)

 腕輪を買った時の微笑みが、アーベルの脳裏をよぎる。どうか、彼女がいつまでも笑っていられますように。
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