独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!

「ん?」

 どこから視線がきたのかと見回せば、並んだ令嬢の向こう側からこちらを見ているのは、本日の主役アーベルだった。
 クッキーに手を伸ばしかけた間抜けな姿勢のまま彼と目を合わせ——それから、フィリーネは何も見ていないふりをして、そのままクッキーをつまみ上げ、ぱかりと大口を開けて口の中に放り込んだ。
 口の中でクッキーがほろりと崩れ、チョコレートとバニラの香りが口内に広がる。後から上品な甘さとバターの香りが追いかけてきて、フィリーネは笑顔になった。本当に、おいしい。さすが大国。この城はいい菓子職人を抱えているようだ。

「このお菓子、お部屋に持って帰れるのかしら」
「残り物は使用人がいただきますが、お気に召したようでしたら、厨房から同じものをお部屋に運ばせますよ、お嬢様」

 テーブルの側にいる使用人が、フィリーネの独り言に返してくれる。
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