独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 アーベルの視線に気づいた彼女は、クッキーの皿に手を伸ばしかけた姿勢のまま固まった。見つめ合っていたのは、十秒くらい、だろうか。
 先に目をそらしたのは、フィリーネの方だった。

(——って、まだ食うのか!)

 思わず心の中で叫んだ。
 フィリーネはアーベルが見ているのも気にせず、ぱかっと大口をあけてクッキーを放り込んだのだ。それどころか、テーブルの側に控えている使用人に何か話しかけたかと思ったら、皿にチョコレートパイを取り分けてもらっている。
 こういう場では、女性はあまり食べ物には手を出さないものだ。がつがつ食べるのは卑しいとされているし、そんなことより意中の相手を射止めるのに夢中になっていることが多い。
 この場合、意中の相手というのは、アーベル一人なので彼に視線が集中するのだが。

(……変なやつ)

 アーベルと結婚すれば、アルドノア王国の援助を受けることができるのに、彼には興味がないようだ。

(……ユリスタロ王国は、我が国の援助が必要なんだと思っていたが)
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