独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「皆が皆、あなたの目にとまることを望んでるわけじゃないですよ」

(やだ、私——うっかり本音を!)

 慌てて手で口を覆うが、一度こぼれ出た言葉が元に戻るはずもない。ついムキになってしまったが、これは非常にまずい状況だ。
 その証拠に、正面にいるアーベルは眉間に深い皺を刻み込んで、ものすごく不満げな表情になった。

「——俺の目にとまりたくないだと? なら、なぜここに来た」
「……父と母の名代として、アルドノア王国とユリスタロ王国との友好を深めるために来ました。だいたい、私とアーベル様が釣り合うと思います?」

 一応、フィリーネは王女だ。だが、アーベルと釣り合うのは、この国の公爵令嬢とかもっと大きな国の王族とかそういう令嬢達だと思うし、王位を継がなければならないので、最初からアーベルの妃の座を求めるつもりはなかった。

「そんなところで無駄な努力をするより、私にはやらないといけないことがあるんです……ん、もうっ」

 正面にアーベルが座り込んでいるので、ものすごく手元が暗い。しかたがないので、フィリーネは立ち上がって場所を移動する。
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