独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「ま、いいか——そのうち、その手を止めてもらうけどな」
「それはないと思いますけど……」
「お前、はっきり言いすぎだろ。世間の女性は、俺の目に留まろうと懸命なのに」
「それを拒んでるのはアーベル様でしょう? 私は、もともとこの国にそういう目的で来たわけじゃないですし」

 もう何百枚も同じハンカチを作っているので、手元はあまり見なくても作業を進めることができる。
 ちらり、とアーベルの表情をうかがう。

(……もったいないな)

 素直にそう思った。
 フィリーネはいまいち興味ないけれど、彼の顔立ちは整っているし、こちらの手元を真剣に見ているまなざしも、たぶん、見る人が見たらどきりとするくらい素敵なんだろう。。

「一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ? 答えるとは限らないが」
「ですよねー。って、そうじゃなくて。どうして、集まってきた令嬢達が嫌なんですか? 皆お綺麗だし、高貴な身分の方ばかりだし、普通ならあれだけ集まったら大喜びな気がするんですけど」

 何もわざわざフィリーネを相手にしなくてもいい、と思う。先ほど、フィリーネのことが気に入らないと噂していた彼女達だって、たぶん、アーベルが手を差し伸べたら喜ぶと思う。
< 77 / 267 >

この作品をシェア

pagetop