独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「それなら、フィリーネはどうするんだ?」
「どうって……いずれ、そのうち、ですねー」

 あいまいに笑ってごまかした。今、名前を呼ばれて心臓が跳ねた、なんて言ったら絶対に笑われる。

(——恋愛経験がないから、知らない人が側にいるだけでどきどきするのよ)

 と自己分析して気を落ち着けることにした。
 舞踏会の時、意外と優しいと思ったし、ドキドキしてしまったけれど、フィリーネの経験値の浅さが問題だったのに違いない。

「——私は、今はそれどころじゃないですね。おじい様の悲願をどうにか達成したいから——私の将来のことはそのあと、でしょうか」
「国が大事か」
「アーベル様もそうでしょう? だから、国のために一番いい相手と結婚する、なんて言葉が出てくるんですよ」

 アーベルもフィリーネも。立ち位置こそ違うけれど、根底のところで大切にしたいものはきっと同じなのだとお互い初めて知った。

(……思っていたのとちょっと違うかも)

 最初にあんな申し出をしてきた時には、なんてことを言い出すのだと彼に対して批判的な目になってしまった。でも、自分のことよりまず国のことを——彼がそう考えているのだとすれば、少し彼を見る目が変わる。
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