独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「そうか、そういうものかもしれないな。それで、効果はあったと思うか?」
「だって、わざわざモチーフまで揃えてくださったんだから、効果が出ない方がおかしいでしょう。私のレース、人気が出るといいんですけど」

 アーベルと顔を見合わせて、笑う。共犯者めいた笑みになってしまった。
 まさか、こちらの国に来た時には、こんなことになるなんて想像してもいなかった。アーベルの顔なんて、遠くから見たらそれで終わりだと思っていたのに。

「——ねえ、アーベル様。私達、じーっと見られてる気がするんですけど」

 城の方を振り返ったら、ヤグルマソウの間の窓で何かがきらめいた。
 たぶん、あれはヘンリッカだ。双眼鏡を使って、こちらの——というか周囲の令嬢達を観察しているのだろう。そして、ヘンリッカの観察している令嬢達は、アーベルとフィリーネを観察しているというわけだ。

「実を言うと、俺も見られてる気配がする」
「そうですよね、やっぱり皆、気になるんでしょうか」
「——それは、こういうことだと思うぞ」
「わわっ、何するんですか!」

 いきなりぎゅーっと手を掴まれた。反射的に振り払おうとしたけれど、彼の力は強くてフィリーネの手を引き抜くことなんてできなかった。
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