独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「け・い・や・く」

 一文字一文字区切って言うから、ちょっとムッとする。手をいきなり握られるなんて経験したことなかったんだから、しかたないじゃないか。
(……い、いきなりこんなことをするから)
 真っ赤になった顔を隠すようにうつむく。彼にとっては、手の一つや二つ握ることなどたいした問題じゃないのだろうけれど、フィリーネからしたら大問題だ。

「——知りませんからね!」

 腹立ちまぎれに叫んだら、彼は愉快そうに笑った。

「言っておくけどな、今夜も付き合ってもらわないといけないんだぞ」
「わかってますって。ちゃんとドレスを用意したから大丈夫です。その次は、ちょっと考えないといけないけど」
「考えないといけないってどういうことだ?」
「まだ、仕立て直しが終わってないんですよね。私とヘンリッカの二人でやってるからしかたないんですけど、間に合うかどうか」

 とりあえず、その後についてはまた考えよう。とにかく、今夜のパーティーについて頭を切り替えないと。
 だけど、握られた手がずいぶん熱いように感じられて、その後もずっとフィリーネは落ち着かないままだった。

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