独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ◇ ◇ ◇
 
 フィリーネとの「契約」についてアーベルは当然誰にも話さなかった。
 今のところ、相手については両親が懸命に探しているところだ。三か月後に適当な相手が見つかればそれでいい。

(意外と、いい相手を見つけたかもしれない)

 なんて、フィリーネを判断したのはアーベルの傲慢なところなのかもしれなかった。
 ユリスタロ王国がこの大陸全土を治めていたのは、今から三百年も前のことだ。国が衰退した今、その影響はもうほとんどなくなっている。
 アーベルと話している間も手を動かし続けているのには閉口したけれど、フィリーネは自分の生活を崩すつもりはないらしい。

(……ま、自分の民を大切に思うのはいいことだよな)

 アーベル自身、この国も、民も愛している。とても大切だと思っている。
 だからこそ、結婚相手を選ぶのに恋愛感情は不要だと信じていた。

 アーベルの両親も政略結婚だったけれど、今では仲睦まじい夫婦だというのを知っているからというのもあったかもしれない。
 フィリーネとの密約を交わす上で聞いたのは、ユリスタロ王国はレースを特産品にしようとしていて、それは彼女の祖父が発案したということだった。

 絹糸や麻糸をそのまま輸出するより、付加価値をつけて輸出した方がいいというのがレース生産を学ばせるための目的だったようだ。
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