独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「いい気にならないでよね?」

 ライラは、腰に手をあててフィリーネをにらみつけていた。
 そっと目をそらすと、視線の先では、アーベルが数人の令嬢と談笑していた。どうせなら、あの中の誰かに決めてしまえばいいのに。
 いや、今はアーベルではなく目の前のライラに集中しなくては。

「あなたのそのドレス、レースだけは素晴らしいけれど——それで、アーベル様のお側に立つのにふさわしいと思っているの?」
「……それは」

 フィリーネのドレスは、たしかに母のドレスを仕立て直したもの。
 こちらにきてからヘンリッカの手を借りて流行の形に仕立て直したけれど、たぶん、ライラから見たら野暮ったいのだろう。

(でも、レースは素晴らしいって)

 その一言が、フィリーネに自信をつけてくれた。レースが素晴らしいのなら、山積みになっている問題の一つは解決したことになる。

「レースを誉めてくださって、ありがとうございます。このレース、我が国の——あのですね、ライラ様」

 ずいっと一歩前に出たら、ライラは一歩後退した。フィリーネがまた出る。ライラが下がる。三度それを繰り返し、フィリーネが説明を続けようとした時、ライラが声を上げた。
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