独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 悔し紛れにフィリーネは足を踏み鳴らした。アーベルは助けてくれたのかもしれないが、今のはありがた迷惑だ。

「ドレスが流行遅れですって。上手に仕立て直せたと思ってたのに——でもレースは誉めてくれたんです。だから、レースを売り込もうとしてところだったんです! それなのに、アーベル様が邪魔するから!」

 邪魔するから、と二度も言ってしまった。だが、アーベルに邪魔をされるのは二度目なのだ。せっかくライラと直接会話する機会を得られたのに。
 だが、ライラがフィリーネのドレスはみっともないといったのも本当のことだった。

(——先立つものがないのよねぇ)

 アーベルの方には目を向けず、こっそりため息をついた。
 なにせ、侍女や従僕を連れてくることができないくらいの貧乏姫だ。一応、最低限の金銭は持ってきているけれどドレスを買うのに使うのは気が引けるわけで。

「見た目は悪くはないけどな。だが、俺の隣に立つには貧相なのは否定できない」

 フィリーネはむっと唇を引き結んだ。貧相って言葉、あんまりだと思う。だが、アーベルはフィリーネの肩を抱いて引き寄せた。
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