独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
翌日、馬車のところで待ち合わせたアーベルは、フィリーネの持っている鞄に目をとめた。
「ずいぶん大きくないか、その鞄——まさか、レース編みの道具を馬車に持ち込むつもりじゃないだろうな。すぐに着くぞ」
「その間ももったいないですけど、今日はあきらめました。私も、いろいろと考えることもありまして」
王族の馬車は、アルドノア王国に来る時借りたヘンリッカの実家の馬車よりだんぜん乗り心地がいい。座って素直に感心する。座席に張られてる布一つとっても、比べ物にならない品質だ。
御者が馬車を御してくれるので、今日はパウルスとヘンリッカは留守番だ。たぶん、二人で城内の庭園を散策しているだろう。二人が仲良く出かける時間だって必要だ。
フィリーネは窓の外に目を向ける。そうしていなければ落ち着かなかったのだ——だって、フィリーネの隣にはアーベルが座っていた。
「どうして、並んで乗っているのでしょうね? 向かいの席じゃ駄目だったんですか?」
「向かい合って座る方がおかしいだろ? 気に入ってる娘と出かけるのに」
「——そうですか」
別に、本気でフィリーネのことを気に入っているわけでもないくせに——なんて言えるはずもない。フィリーネを『お気に入り』として周囲に見せつけたいだけなのはちゃんとわかっている。