独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 アーベルは街の様子にはあまり興味がないみたいだ。たしかに彼は生まれてからずっとこの国で暮らしているわけで、これが特別な光景ではないのだろう。
 背もたれに背中を預けて腕を組み、時々ちらりと視線を走らせるだけ。難しい顔をしている理由は、フィリーネにはわからない。

「……いい国ですよね。皆、幸せそう」
「そう思うか?」
「もちろん! 私の国も——いい国ですよ。貧乏だけど、それはしょうがないですよね」

 フィリーネも、自分の国が好きだ。人口は少ないし、貧乏だし、冬は寒いし——それでも、自分の国を愛している。
 冬の早朝、窓を大きくあけ放ってぴんと張り詰めた空気を吸い込むのが好きだ。

 湖に張った氷の上でスケートをするのも楽しい。雪の中、そり遊びもするし、子供達と雪合戦をすることもある。子供達と一緒に大きな雪だるまを作って、雪を掘って雪洞を作って、その中でおやつを食べて。そんな時間が好きだ。

 長い冬が去った後、春のぽかぽかした気候も好きだ。夏に向けてどんどん忙しくなっていく時期。家畜小屋ではたくさんの家畜が生まれて、その世話に追われることもある。
 短いけれど美しい夏も、実りの秋も。どの季節も愛している。
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