スイーツよりも甘くとろけさせて
常に無愛想な彼は雑誌やテレビの取材が来ても、私に任せきりで最前線に出ようとはしない。


ケーキを作っている最中も表情が変わらず、ただ黙々と作業をこなしている。


お客様が居ない時に厨房を覗き込むと顔立ちの綺麗な晴空君が伺える。


お母さん譲りの綺麗な顔立ちをしているのだから、愛嬌をもっと振り巻けば女性客が倍になりそう・・・だなんて、邪な考えもしてしまう。


けれども女性客が増えたら困るのは私の方だ。


ケーキよりも晴空君を目当てで来る様な女性客にヤキモチを妬かないはずはない。


それに何より、ケーキも純粋に味で好きになって欲しいと願っているから、晴空君目当ての女性客は考えものだ。


「穂奈美(ほなみ)、店頭に並べて置いて」


「はい」


晴空君のお父さんが手伝いに来ている日は、晴空君はただひたすらにケーキや焼き菓子などを作り続けていて、私と話すのは仕事の内容のみだ。


普段から無口な晴空君だったけれど、一度だけ言ってくれた「好き」の言葉が忘れられない。


その「好き」の一言は、付き合うきっかけになった一言でもあるのだけれども・・・。




本当はもっと「好き」って言って欲しい。


愛されている実感が欲しい。


ケーキばっかりじゃなくて、私も見てほしい。


我儘な願いかな?
< 3 / 16 >

この作品をシェア

pagetop