記憶のかけら
ピアス
大広間はたくさんの人で賑わっていた。

美味しそうな料理やお酒が次々と運ばれ、

宴は最高潮に達していた。



御影さんに促がされて前に出たものの、

どうしよう…

考えがまとまらないままノープラン。



みんなそれぞれ楽しんでるのに、

わざわざ盛り下げることをしなくてもと思う。

恨めし気に御影さんを見てみるけど、

目が合ったのに、素知らぬ顔をしている。



賑やかだった広間は少しづつ静かになって、

こちらに視線が集まってきた。

冷や汗が出て、もうどうにでもなれ!と覚悟を決めた。



「上杉真由美!

忘年会の余興で歌ったのを歌います!」



昨年、流行った「海の声」という歌。

日本昔話の主人公がいろいろ出てくる某携帯会社のCMで、

浦島太郎が海に向かって三線を弾き歌うアレです。ハイ。



「みなさん、手拍子よろしくね!!」



いきなり聞いたこともない歌を歌いだす女を見て、

部屋中の空気が張り詰めた。



アカペラで歌うのキツイよ、

御影さ~ん!ホント恨むわ。

顔で笑って心は半泣き。

歌ってる間中、うらめしい気持ちが交差する。



そのうちに、最初ぽかんとしてた人達が、

一人、二人、歌と私の手拍子に合わせて、

ちょっとズレた手拍子をしだした。

海を越えてやってきたお客様達も、なんだか楽しそう。

怪訝な表情から、

笑顔になっていくのが見て取れた。



お舘さまやご家来衆も、

串焼きをほおばってた久保田さん、鍋島さんも、

初めて聞く歌にあわせて、手拍子しだす。

ズレた手拍子もご愛敬!

みんな笑ってた。



歌が終わった!

やっと終わった!

これでお役目放免のはずが、

裏方には戻れなくなった。



明の国の人達が、何か指さして私に近づいてくる。

たどたどしい日本語で私の耳を指さし、

それはなんだと聞いている。



つけていることをすっかり忘れていた。

18金の台座に光る

小さなサファイアのピアスのことだ。



この時代にサファイアがあるのだろうか?

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