記憶のかけら
ほほえみ外交
そもそもサファイアのピアスは私にとって、

負け犬ジュエリーだった。



学生時代から付き合ってた彼と別れた頃、

仲のいい友人達が次々と結婚していった。

大安吉日は朝早くから美容院でおしゃれし、お祝儀を包んだ。

信じられないけど、交際費が給料を超えた月もあった。

結婚のお祝儀、二次会参加費、美容院代、衣装代、交通費…



仕事では上と下の年代に挟まれ、

ストレスばかりが増えた時期。

何もかもうまくいかない気がして、

将来が見えなくて、

自分で買ったサファイアのピアス。



ボーナスをはたいて買った良質の石は、

海外旅行に行くより高価な買い物だった。



その輝きが時空を飛び越え、

外国の人達の目に留まるとは。

夢にも思わなかった。



明国使節団の言葉を、通訳が仲介。



「その耳飾りはどこで加工されているのか?」

「黄金と貴石の産地は?」と尋ねているらしい。



事情を説明しても無駄だと思う、うん。

こんな時は、ほほえむに限る。

営業スマイルで愛想をふりまき、

何もわからないふりをし、適当にやりすごす。



そばに御影さんが来てくれた。

私に代わって、

「世界に二つとない代物で、

選ばれし者だけが身に着ける耳飾りだ」

とかなんとか、

思いっきり怪しいことを、

自信たっぷりに言ってる。



マジですか?

適当すぎる…

そんな答えで誰が信じるの?



私のほほえみ外交と大差ない返答を、

しれっと平気でしてる御影さんに、

悶々とする。



周囲の会話から、

インドでルビーやサファイアが産出しているらしいこと。

石はペルシャを通って、

ヨーロッパに運ばれていることが分かった。



昔読んだ童話「小公女」のお父様が、

宝石採掘中に亡くなったのを思い出し、

知らない人だけどちょっと身近に感じた。



世界地図が頭の中で点滅してる。

地図が軍事機密とわかった今、

滅多なことは言うまい。

知ったかぶりもしちゃだめだ。

自分に言い聞かせる。



この時代って、どんな世界観だったんだろう。



社会の授業、もっと真面目に受けるんだった。

今さら遅いけど、深く反省。

歴史も地理も、こんなに知りたいと渇望するなんて。

ネットがあれば簡単にわかるのに、もどかしい。

記憶を絞り出すけど、むずかしい。



散らばったキーワードを拾い集めると、

たぶん、戦国時代なんだろうな。と思う。

正確な年代はわからないけど。

受験で必死に覚えた語呂合わせが、

力強く頭の中でぐるぐる回る。



人の世虚しき(1467)応仁の乱

いちごパンツ(1582)本能寺の変

ヒーローゼロゼロ(1600)関ヶ原の戦い・・・



私の知ってる日本史と同じかどうかもわからないけど。

信長や秀吉って、もう存在しているのかな?



大河ドラマの中で、

織田信長は人生50年と言ってた。

ということは、私、

人生の最終コーナーを曲がっちゃってる?

ちょっと待って。

もうゴール手前なの?



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