記憶のかけら
逢魔時
遠足気分で見るもの聞くものが珍しく、

全てが新鮮で、つい足が止まってしまう。



思ったことや疑問を次から次へ口にする。

そのたびに、久保田さんや鍋島さんが丁寧に答えてくれる。



様子を見てお舘さまがニヤリとするような気がするけど、

気にせずマーケテイングの真似ごとをしていた。



今日は、夕日が大きくて紅くて、

綺麗すぎる。

思わず見とれて、

歩くことも忘れてしまうほど美しい。



人と魔物が出会う時間。

人の心を狂わす逢魔時。



小さいころ、

早く家に帰らないと人さらいが来るよと言われたなぁ…

妙なことを思い出す。



人ごみの中を気もそぞろな私に、

「真由美殿、気を緩めずに」

西宮さんが私に注意する。

何回目かの注意の後、思わず肩をすくめてしまう。

やれやれといったあきれ顔の西宮さん。



気が付くと、みんなとはぐれていた。

見失っていた。



ほぼ同じ頃

「真由美殿?」

最初に気が付いたのは西宮だった。



あちらへ、こちらへと、

目につくもの手に触れるものに関心を示し、

足を止めては質問をしていた真由美が、

急に静かになったことに、疑問を感じたのだった。

そばにいると思っていたのが、

少し離れたところできょろきょろしている。



「真由美殿!」大きな声で呼んで、

困ったものだと思いながら、速足で向かう。

混雑している通りは思うほど進めず、

姿を確認しながらもイライラするばかり。



瞬間、

怪しい男たちが真由美を取り囲み、

連れ去るところが見えた。

「チッ!」舌打ちをして

必死で追いかける西宮。



櫻正宗秀継、久保田、鍋島も異変を感じていた。



「賢太郎?」

「西宮殿?」

「真由美殿?」

それぞれの問いかけに答えが聞こえない。

どこにも姿が見えない。

二人がいなくなった事を瞬時に悟った。



「屋敷に戻るぞ!!!」

お舘さまの大きな声に



「御意!!!」

久保田と鍋島が答えた。



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