記憶のかけら
臨戦態勢
屋敷に戻ったお舘さまの行動は素早かった。



次々と指示を繰り出す。



側近たちは早馬を出し、

各地へ伝令していく。



屋敷内の者はもちろん、

領内津々浦々まで、

迅速に命令が行き届き、

東の芦屋、西の須磨、北の有馬までもが、

皆、お舘さまの命令に従い、動き始めた。



この時から、

櫻正宗のすべての者が、臨戦態勢に入った。



港町には篝火が煌々と焚かれ、

昼間のように明るくなっている。

見張りの目をかいくぐって、

街を出て行くことも入ってくることも難しくなった。



よそ者に対しては、

お舘さまが流行り病に罹ったようだと伝え、

街から出て行くように仕向けた。

そのため、

噂話は面白いほど一気に拡散していった。



周辺の豪族たちに、

誤った情報が伝わるよう、

畳み掛けるよう次から次へ情報戦を仕掛けていく。

守備を固める時間稼ぎをするために。



火災による被害を防ぐため、

船は大半を沖合に移動し停泊させた。

船乗り達は小舟で港へ戻り次第、

各自の持ち場へ散って、

守りについた。



屋敷内には食料が続々と運び込まれ、

籠城に備えた。



街への各入り口には大軍の侵入を阻むための、

土嚢が積まれた。



水門が次々と全開にされ、

街中を流れる川の流れが速くなり、

ごうごうと音を立てだした



街道沿いの村々、海辺や山間の集落でも、

すべてに篝火が焚かれ、

不審な者が通らないか警戒を強めていた。



全ての情報は逐一、

櫻正宗の屋敷に、

お舘さまの元に、

もたらされていた。



櫻正宗の者達は、戦に備えた。

男も女も年寄りも子どもまでが、

自分に与えられた役割を一生懸命果たしていた。

真由美や西宮の無事を願いながら、、、

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