記憶のかけら

決意

長い長い一日だった。



私自身わかってないことを、

お舘さまは根気よく、真剣に聞いてくれた。



みんなが思っている上杉家と「上杉真由美」は親類縁者ではないこと。

普段は仕事をしていて、有給休暇取得中のアクシデントということ。

京都のショッピングモールへ車で向かっていたこと。

運転中に目の前の景色が崩れたこと。

猪に出会ってフラッシュが光ったとき矢が飛んできたこと。



どれだけ伝わったのか、

ほとんど理解できてないと思うけど、

みんな黙って聞いてくれてた。



わかっていることは、

私は過去にタイムスリップしたということ。

これは話していない。



今がいつの時代かわからないけど、

言葉が通じること、

風景や建物、

人々の身なりや生活の様子から、

日本に間違いない。と思う。



映画や小説なら

思いっきり楽しんでTHE ENDになるけど、

これは私の人生延長線。

突然過去を断ち切られはしたけど、

私は、いま確かに生きている。



これまで、

相手の気持ちを考えすぎたり、

他人のために先回りして動いたり、

自分の気持ちを抑えて、

良い人でいることを優先してきた。



嫌な目にあっても言い返さず、

自分のキャリアのためにとか、

私が我慢すればうまくいくとか、

無理やり理由をつけて、

自分を納得させてきた。

仕事も恋も。



今この状況で

我慢も、納得も、何もかも、

ちっぽけな私の考えなんて吹き飛んで、

真剣に「今」を生きようと決意した。

一生懸命、今この瞬間を生きるしかない。



お布団に入っても、

疲れているのに目が冴えて、

なかなか寝付けなかった。



静寂そのもの。



私のために用意された部屋の障子を開け、

草履を履いて庭に出た。



月の薄明かりで目が慣れたとき、

ボンッ！

爆発音とともに

近くの建物から火の粉が上がるのが見えた。