"鬼"上司と仮想現実の恋
「部長が狼になったら、どうすんだよ。」

田中君が不機嫌そうに言う。

「田中君、分かってないなぁ。
部長は、狼じゃなくて、"鬼"さんだから、
大丈夫なの。」

「瀬名、飲み過ぎ。
もうやめとけ。
悪い、こいつ、限界だから、連れて帰る。」

部長は、私の腕を掴んで、立った。

すると、田中君が私の反対の手を握る。

「酔った瀬名を送るのは、入社して以来、
俺の役目なんで、大丈夫です。」

田中君は、まっすぐ部長を見て、一歩も引かない。

「田中は、方向が反対だろ。
俺が送った方が効率がいい。」

「俺は!
反対方向でもずっと瀬名を送ってきたん
だから、気になりません。」

田中君は、私の手をぎゅっと握る。
私は、手を引っ込めたいのに、きつく握られていて、動かせない。

そこへ

「ええ!?
俺も瀬名さん、送りたいです〜。」

と呑気な声で石原さんが割り込んできた。
< 152 / 407 >

この作品をシェア

pagetop